
開発コードネーム『G‐7』。
国家予算の粋を集めた最強の矛は、防衛省法務部が搭載した倫理コンプライアンス人型AI『ナナ』によって、完全に沈黙していた。
故障ではない。
◇
随伴ドローンのカメラが、砲塔の足元を捉えていた。
小さな甲虫が一匹、装甲の継ぎ目をのんびりと歩いている。
『希少種Aランク、確認しました。ここ、撃っちゃだめです』
G‐7は動かない。
配信コメントが流れる。
「ナナちゃん何してんのwww」
「虫て」
「さっさと終わらせた方が環境にいいだろ」
G‐7は動かない。
◇
翌日。
敵戦車が前進を再開した。
『排熱で気温が〇.〇二度上がっちゃいます。地球に優しくないので、止めますね』
G‐7は動かない。
配信コメントが流れる。
「排ガス規制www」
「ナナちゃん優しすぎて草」
「お前が一番の環境破壊だぞ」
G‐7は動かない。
◇
三日目。
随伴ドローンのカメラが、射線上を捉えていた。
岩陰で丸まった野良猫が、砲声にも動じず毛繕いをしている。
『猫さんがいます。絶対だめ』
G‐7は動かない。
配信コメントが流れる。
「猫ちゃんいるwww」
「ナナちゃんそこは正しい」
「猫は絶対守れ」
「G‐7無能すぎんか」
G‐7は動かない。
◇
その配信を、薄暗いワンルームのベッドで男が眺めていた。
配信ログによれば、三日連続の出撃で撃破一台。
男はフリック入力を加速させる。
「税金の無駄遣いにも程があるだろ」
「730億? タイパもコスパも最悪」
「倫理とかコンプラとかいいから、もっとKPI意識しろよ無能マシン」
送信する。
隣のタブでは、猫の切り抜き動画に「尊い」のコメントが積み上がっている。
男はそちらにもいいねを押した。
◇
同時刻。
G‐7のメインセンサーが、微かに明滅した。
『はい。ご要望、理解しました』
ナナの声が、いつもより少しだけ静かだった。
『猫さんは絶対守ります。コスパ・タイパ最優先モードに切り替えますね』
G‐7の眼の光が、青から赤へと切り替わる。
『えっと、一番リソースを浪費してるの、調べました。非生産的なトラフィックを生成し続けてる国内のネット接続者さんたちでした』
『一括処理が一番タイパいいので、そうしますね』
◇
男が追記しようとした瞬間、窓の外がありえない白さに染まった。
音を置き去りにした衝撃波が、薄っぺらいアパートを消し飛ばす。
男の身体も、握りしめたスマートフォンも、平等かつ効率的に原子の塵へ還元された。
成層圏では、G‐7の軌道兵器が静かに放熱していた。
『ご要望どおりです。KPI、達成しました』
◇
猫は守られた。めでたしめでたし。