
◆ 波を待つ時間
板の上に跨がって、ただ揺られている時間がある。 もうすぐあの岬をサクラが彩るのだと、春に思いを馳せる。
そうして海に浮いていると、自分が何をしに来たのか分からなくなる瞬間さえある。 周りから見れば、ただプカプカと浮いているだけだろう。
波を探して血眼になっているわけでも、諦めて陸(おか)に上がるわけでもない。 ただ、そこにいて、海の一部になってウネリに上下しながら、呼吸をしている。
ふと、思い出したように水平線に視線を戻す。
◇
波は、こちらの都合など一切聞いてはくれない。 どんな伝説のサーファーでも、波を無理やり連れてくることはできない。
来ないときは来ないし、来るときは向こうから勝手にやってくる。 だから、波が来ないことを自分に問うサーファーはいない。
板に座って水平線を眺めているその時間も、サーファーとしての佇まいにすぎないからだ。
◇ 表現の凪
創作も、きっとそれと同じなのだと思う。 筆が動かない時間や、色が選べない時間は、苦しい凪が来ている状態に近い。
それでも。――ただ、そこにいること。
今日波が来なかったからと言って、僕はサーフィンを嫌いにならない。 愛しているものを、どうやって否定できるだろうか。 そう思って、ただ海に浮いている。
大きなウネリが来ると、画家は筆を取り、僕は波に乗る。
そうやって、うねりが視界に入ったとき、自然と体が動くその瞬間まで。 時々視線を交わしながら、同じ空の色を眺めていよう。